出典:World Bank Open Data(指標 SP.DYN.TFRT.IN「Fertility rate, total (births per woman)」)/対象期間:1960–2024年
破線は人口置換水準(2.1)。低死亡率社会では、この水準を長期的に下回ると人口は減少に転じます。
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世界銀行の地域区分・所得区分による集計値。破線は人口置換水準(2.1)。
国・地域単位(世界銀行の集計値を除く か国・地域)のランキング。
世界の合計特殊出生率(TFR:女性1人が生涯に産む子どもの平均数)は、1960年代初頭のピーク(5.3超)から2024年には2.19まで、約60年間で6割近く低下しました。とりわけ注目すべきは、世界平均が人口置換水準(2.1)にほぼ到達したことです。国連の推計では、このままの趨勢が続けば世界人口は2080年代半ばに約103億人でピークを迎え、その後は緩やかな減少局面に入ると見込まれています。人類は「人口が増え続ける時代」から「静止・減少する時代」への転換点に立っています。
出生率の低下は「人口転換(demographic transition)」——死亡率の低下に遅れて出生率が低下する歴史的パターン——として理解できます。グラフが示すように、地域間の落差はいまだ大きく、サハラ以南アフリカ(4.26)は人口転換の途中段階にあるのに対し、東アジア・太平洋(1.34)や欧州(1.55)は転換を完了し、置換水準を大きく下回っています。つまり今日の世界は、人口転換の異なる段階にある社会が同時に存在する「多速度の世界」であり、今後の世界人口増の大部分はサハラ以南アフリカが担うことになります。
所得グループ別のデータは、低所得国(4.46)から高所得国(1.42)へと、所得水準の上昇に伴い出生率が系統的に低下することを示しています。背景には、児童死亡率の低下(多産の保険としての意味が薄れる)、女性の教育機会と労働参加の拡大(出産の機会費用の上昇)、都市化、家族計画・避妊手段の普及といった要因が複合的に働いています。出生率低下は「開発の結果」であると同時に、社会保障制度や労働市場の再設計を迫る「新たな課題」でもあります。
下位ランキングには、韓国(0.75)、香港(0.84)、プエルトリコ(0.92)、シンガポール(0.97)、中国(1.01)など、TFRが1.3を大きく下回る社会が並びます。人口学ではTFR 1.3未満は「超低出生率」と呼ばれ、かつては南欧・東欧の現象とされましたが、今や東アジアがその中心です。韓国の0.75は、置換水準の3分の1強にすぎず、単純計算で世代ごとに人口が約3分の1に縮小するペースを意味します。人口学者ルッツらが提唱した「低出生率の罠」——少子化が進むほど若い世代の理想子ども数そのものが下がり、回復が難しくなる自己強化メカニズム——の実例として注目されています。
日本のTFRは2024年時点で約1.2。1960年代には2.0前後でしたが、1974年の第二次ベビーブーム終了以降ほぼ一貫して低下し、1990年代半ばに1.5を割り込みました。グラフからは、日本が超低出生率化した韓国・中国と、かつて2.0前後を維持してきたフランスやアメリカとの中間に位置し、かつ低下を続けていることがわかります。先進国の中でもフランスのように家族政策で一定の下げ止まりを見せた国と、東アジア型の急激な低下をたどる国の差は、制度・労働市場・ジェンダー規範の違いを映し出しています。
出生率の低下は、移行期には「人口ボーナス」(生産年齢人口の比率が一時的に高まり、経済成長を支える局面)をもたらします。東アジアの高度成長はその典型例でした。しかしボーナス期は永続せず、出生コーホートの縮小はやがて「人口オナス」(高齢者比率の上昇と社会保障負担の増大)として跳ね返ります。高所得国のTFRが1.42まで低下した今日、年金・医療制度の持続可能性、労働力不足への対応、移民受け入れの是非が、多くの国で中期的な政策課題となっています。